魚雷モグラ ウラダイコク 平成21年11月14日(土)19:00 サンモールスタジオ

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今日、渋谷で「映画版 妹と油揚」(上映の順番が最後だったため別の映画2本)を見た後、新宿に移動し「魚雷モグラ」を観ました。
ウラダイコクの第8回公演です。

変わった題名です。
戦時中、学徒動員された女子高生たちが地下の兵器工場で「魚雷」製造のため働いていました。
生徒の一人に「モグラ」の夫婦が踏み殺されました。
その夫婦の娘モグラが生徒に復讐するため兵器工場に忍び込みます。
場所は長崎、まもなく原子爆弾が落とされ街は火の海となり、悲惨な結末を迎えます。
女子学徒の先生、女子学徒を管理する軍人の班長、そしてその上司の青年将校が登場します。

ウラダイコクの舞台を観るのは初めてです。
ありふれた駄洒落、ストーリーと無関係なお笑いやパフォーマンスが多く、演劇というより吉本興業のバラエティ番組のようした。
これがウラダイコクの舞台のようです。
作・演出の如月せいいちろーは原爆の悲惨な事実を伝えたいと語っていますが、意地悪く言えば原爆の悲劇を「お笑いネタ」にしたともいえます。

ラストシーンは先生と生徒たちが命を落とす場面です。
喉が渇く、皮膚が黒く焼け焦げる、頭や体に無数のガラスなどが突き刺さるなど、原爆の被害としてはよく知られた事実です。
長崎は見ていませんが、広島市平和記念資料館(原爆資料館)には、もっと凄惨な、目を覆いたくなるような資料が数多く展示されています。
このラストシーンが原爆の悲劇をあらためて観客に訴えて感動させる場面にはなっていません。

原爆の悲劇は、もちろん人間の体への物理的な影響もあります。 しかし、戦争という暗い時代を一人一人懸命に生きていて、いずれ戦争が終わり、それぞれの夢や希望を将来に託していた、その一人一人の命を一瞬にして奪ったことが真の悲劇であるように思います。
この悲劇を舞台で表現するには、登場する一人一人の「個」を描く必要があります。
将来を奪うことの意味は一人一人にとって違っているからです。
今日の舞台では生徒の「個」はほとんど描かれていません。
生徒は全員、青年将校に憧れ恋心を抱いているという「均一な演出」になっています。

また、とても「青年将校」と言えない外見でした。
学生服のようなものに階級を示す銀線をいれていますが、軍服らしい威厳も凛々しさもなく安っぽい感じです。また頭は7:3に分けた長髪でした。
演じた役者が氷川きよしに似ていて、生徒の前で馬鹿げた演技もするので軍人らしくなくとてもおかしかったです。

私の好みで仕方ありませんが、きちんと「個」を描いた「人情話」になっている舞台がいいです。 そうすれば「魚雷」と「モグラ」という無関係な話を無理矢理一つにする必要もないと思います。
先週はたまたま私好みの舞台を観たところでしたので、余計にこのような感想になってしまいました。
また、原爆による「個」の悲劇を描いた舞台には井上ひさし作の「紙屋町さくらホテル」があります。
でも一回観ただけですので、次回公演もしっかり観に行こうと思います。


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